もう30年近い昔の話。合併し東京フィルとなる前の新星日響時代、オーケストラを親身に応援してくださっていた髙橋武さんのご紹介で、とある高名なチェロの先生とアンサンブルさせていただく機会を得た。教則本の監修などもされているその方とはもちろん初対面、リハーサルをお宅でさせていただくこととなり、緊張して向かった。最寄り駅まで車で迎えに来てくださると。折りしも雨、駅の出口はちょうどよく高架下、ガードレールの切れ目に合わせて車を止めて待っていてくださった。もちろん駅の真前、本当は駐禁なのだが。傘の雫を気にしながら急いで乗り込みお宅へ。初対面だし、ベートーヴェンの「メガネ」だし、たいそうな緊張具合でその日の記憶は実はあまりない。その後、一度中華街で会食の機会と、横浜のカフェでの本番当日と、お会いしたのはそれだけ。お酒が強く、ヘビースモーカー、すらりと長身でダンディ、つねに落ち着いた佇まいでちょっとはにかんだ笑顔とお話しぶりながら、雄弁なチェロ。。。

時は過ぎて、コロナ禍が最初の収まりをみせた20年12月、中学同級の「ジャイアン」から突然のメッセージ「今、〇〇先生と飲んでるんだけど」と。どうやらいきつけの店で隣り合い、音楽の話などから私の名前を出したところ、先生も思い出してくださったらしい。すぐにジャイアンに電話をかけ、先生とも少しお話しできた。「コロナもうちょっと落ち着いたら、3人で飲もうね!」

そのカフェの本番後の打ち上げで知り合った、氏のお弟子さんの美樹さんに今日、車で同じように拾ってもらいお宅に伺った。美樹さんとも会うのはその時以来だった。もっともSNS上で毎日会っているかのようなつながりではある。ありがたいことだ。クーラーのがっつり効いたお部屋で先生は横になっておられた。痩せて。もうお話はできない。飲みに行く約束も果たせなかった。長くお目にかかれなかったけれど、政治の話、コロナ禍の話、広く世の中に感じることなど共感することが多くよくFacebookの投稿にいいねをしたし、くださりもした。もう少し待っててください、メガネ、あの頃よりは多少よく弾けると思うので、またご一緒させてくださいね。ご縁くださった髙橋さんももう鬼籍に。時が、景色が、人の心が変わりゆくことがこんなに寂しくなるのは予想外だ。限りある時間、多生の縁。。。あらためて振り返ってしまうよ。帰って もすこし献杯。

藤沢俊樹先生、ありがとうございました。どうぞ安らかに。

おやすみなさい。

tacaco

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