12月後半の、そして大晦日から今日三日までの「新国立劇場・くるみ割り人形」がすべて終了。計12回。毎回、ひとつひとつを大切に演奏した。素晴らしく美しい舞台は、実は演奏していてほとんど見ることができないが、この曲の美しさだけで、オーケストラで弾いていて充分満足。劇場での年越しという初体験も新鮮だった。そして、マエストロ・バクランのことを書いておきたい。私がオーケストラに入った頃はボリショイバレエの来日公演などの伴奏で白鳥の湖やくるみ割り人形、ドンキホーテ、海賊など頻繁にやったのだが、当時はまだ「ロシア」になりたてで、指揮者陣も「ソ連」の香りを残したベテラン指揮者、フェードートフ氏やジュライティス氏なども来日し、もはや今では伝説的な指揮者のタクトをも経験することができた。彼らはロシア語しか話さないので必ず通訳さんがついた。話せても公の場では使わないとか、いろいろあったのかも。が、2005年頃だろうか、新国立劇場が招聘したボリス・グルージン氏が初めてリハで英語を自ら話すロシア人指揮者で、おお、そんな時代になったかと思ったことを記憶している。それでも細かいことはロシア語での説明が必要で通訳さんはついていた。バクラン氏もそう、最初は通訳さんがいらしたが、最近はもうすべて英語でのリハで通訳さんがリハ時にいることもない。言葉の問題そのものより、何より長年ご一緒しているので気心知れたというのもあるのだろう。

マエストロは饒舌である。言葉そのものもだが、音楽も。リハの時にはアンサンブルの乱れなどには厳しく、きっちりパートごとに捕まることもある。うまくいかない部分を取り出して、sotto voceでゆっくりから始めてだんだんテンポを上げる。基礎的な練習の仕方だが、案外プロオケはこういった機会がないので為になるものだ。そして言葉の限りを尽くして(のように私たちには見えるが、まだ言いたりなさそうでもある)その音楽の性格、この場面はどんな感じで、といったことを余すことなく語ってくれる。「(ここのトレモロは)何か不思議なことが起こる、ワクワクした感じで!聴衆の胸をザワザワさせるような感じで。」「ここの最後の三連符は、これは雪、深い雪を踏み締めるような感じだからアクセントはつけないで。」とか。そして、もちろん指揮も「語る」、そして文字通り「踊る」。動きを見ているだけで音楽が聴こえるだろう。いやでも音楽が立体的になるように振ってくれるのだ、素直についていきさえすれば。

もうひとつみんなが忘れられないのは、そしてつい微笑ましく、オモシロく笑ってしまうのは、我々楽員たちに対するマエストロからの賞賛の嵐である。ソロや、パートごとの活躍場面の後には必ずその奏者、パートに向かって、指揮棒で譜面台の端を小刻みに叩き、褒め称えてくれるのだ。時にはその奏者の演奏の真似をして、👍を連発しながらいかに素晴らしかったかを大きなジェスチャーで示してくれる。あまりにその仕草が素早くてコミカルでもあるのでクスッとしてしまうが、こんなふうに演奏に対して全身でメンションしてくれるのは実はとても嬉しく励みになるもの。邪気なく、全身音楽になってしまう愛すべきマエストロ、また次の機会を楽しみにしてます!

休む間もなくw明日は「ファンタジア」https://www.disney.co.jp/eventlive/fantasia.html のリハ。

よき三ヶ日でした。感謝!

おやすみなさい。よい夢を。